創造社会においては生活者の創造性を重視するために生活者を取り巻く環境のリ・デザインが始まっているという。しかし、美術を取り巻く環境においては、 依然として展示作品と鑑賞者の関係性が画一的で「観る」側と「観られる」側の関係性が固定した一方通行のコミュニケーションしか生み出していないように思 われる。しかし、ソーシャルメディアを用いることで、一方通行であった情報発信の方法やアートと人々の繋がり方に多様性が生まれ、既存の美術鑑賞スタイル の在り方についての概念を超えた、双方向性のある鑑賞スタイルを生み出すことが可能であると思われる。つまり、作品を「観る」という行為が大きなウェイト を占めていた美術経験が、webというメディアを通じて人とアートを繋ぐことで、人々が作品を共に楽しみ、共に創造し、共に発信するという新たな美術経験 の提供に繋げることができるのだ。
つまり、アート自体の持つ可能性をweb上で如何にして表現して人と繋げるか、そして、人がアートに対してど のようなコミュニケーションを返してゆくことができるのかというインタラクティブなコミュニケーションの可能性をアートというフィールドにおいて研究し、 その可能性を探求することに意義があると思われるのだ。すなはち、webを通じた鑑賞スタイルを人々に提供することに留まるのではなく、ソーシャルメディ アを用いてアートと人を繋げるプロセスにおいて、どのようなコミュニケーションを育むことができるのかというその可能性を研究する必要があると考えてい る。
また、ソーシャルメディアを用いた新たな美術経験を考えるにあたって情報の発見、共有、発信という人々の鑑賞プロセスに変化を与え ることは、人とアートのコミュニケーションの在り方における鑑賞スタイルに多様性をもたらすだけではなく、既存の美術館運営や美術家支援のビジネスモデ ル、新たな美術表現の在り方を追求することにも繋がると考えられ、その可能性についても研究したいと考えている。
例えば、 ソーシャルメディアの存在により美術館が収蔵する作品は必ずしも物理的に存在する必要が無くなり、美術はpictorial な存在としてweb上に存在することで価値を生み出すビジネスモデルを生み出す必要性が生まれる可能性があると考えられる。既存のメディアにおいては dateとして扱われる情報をいかにしてweb上で価値のあるサービスとして、価値のある経験に還元して美術を人々に提供してゆくか、美術と人々の生活経 験を構築してゆくかということがこれからの美術館運営においては大切となってくるのではないだろうか。直接的な体験として感じることのできる美術経験の豊 かさを大切にしつつも、ソーシャルメディアを用いてよりインタラクティブに人が関わってくる美術の在り方を模索することも、美術界において新たなビジネス モデルを生み出すためには不可欠であり、そこに本研究の意義があると思われるのだ。
この新たなビジネスモデルの創出という観点から考えると、美 術自体の表現方法や美術家達の活躍方法においても新たな可能性を見出すことに繋がると思われる。例えば、美術家の活躍のフィールドがソーシャルメディアを 用いた場にも広がるということは、美術家の表現の場が広がることと、美術作品や美術家の作品の価値判断がソーシャルメディアの利用者である一般の人々に委 ねられことを意味し、既存の美術の世界における美術価値のヒエラルキーの概念に変化を与えることができると思われる。この美術作品の価値のヒエラルキーに 変化が起こることの利点としては、「作り手」と「受け手」という既存の美術の創造と発信の在り方に対して変化を与えることにも繋がり、この変化をきっかけ に美術家の活躍方法を拡大させることが出来ると考えている。ソーシャルメディアが人の生活と社会におけるコミュニケーションに介在することで変化する美術 の在り方の構造変化、つまりはビジネスモデルの変化に伴い生まれる新たな美術家達が社会と繋がるためのコミュニケーション方法について研究することは、美 術家達の活躍する場を新たに生み出すことや活躍の支援を行うことにも繋がり、そこに本研究の更なる意義があると考えている。
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